製作工程

研磨・洗浄・検査


株式会社石川技研社屋

福井県鯖江市。眼鏡産業が有名なこの街で、山間に佇む加工会社「株式会社石川技研」から漆Zippo「越前本漆・河和田塗りZIPPO」の製作はスタートします。チタン眼鏡フレームの表面処理を主とするめっき専門会社として創業した同社は、あらゆるめっき設備に加え、YAG・YVO4レーザーマーキング、フルカラー印刷等最新の設備を備え、眼鏡はもちろん米国zippo社の「加工業者認定工場」としてZippoライターの加工も手がける日本でも有数の技術を持つ加工会社です。

米国ペンシルバニア州ブラッドフォードのZippo本社工場で製造されたライターは、越前本漆・河和田塗りZIPPOに生まれ変わる準備としてこの石川技研で研磨・洗浄されます。

プレスで成形されるZippoライターは、そのままでも十分な品質を持ち、どんな使用にも耐えうる商品です。しかし、石川技研ではそのライターを荒研磨したあと、熟練工がひとつひとつ手作業でバフがけと呼ばれる研磨を施していきます。ほんの僅かでも表面に突起物があると、最終工程の塗りや絵付けに影響が出ます。生産品の歩留まり(生産されたすべての商品に対する良品の割合)は、この研磨工程の仕上がりに大きく左右されるのです。研磨の後、Zippoライターは薬品で洗浄され、曇り一つ無い鏡面の真鍮無垢の姿で河和田の漆職人の手に渡されていきます。



熟練工がひとつひとつ手作業でバフがけ

洗浄後のZippoライター。真鍮無垢の輝き。

下塗り


辻漆器店・辻利和氏

天然素材である漆は、実はそのままですとZippoライターのような金属には塗ることが出来ません。正確には焼付やプライマー処理を施さないと強度的に金属と漆は親和性が低いのです。しかし、河和田には常温で漆を金属に塗り重ねることが出来る技術を持つ職人が存在します。越前漆器協同組合に加盟する、辻漆器店の辻利和氏です。

氏は、「数えきれないほど失敗しました。困難な挑戦でしたがついにその方法を見つけることが出来ました。」といいます。詳しい方法は企業秘密ということでしたが、作務衣姿に飄々とした風貌、淡々と話す口ぶりから醸し出す職人のプライドに圧倒されます。常に技術的困難に立ち向かうこと、職人とはそういう人たちなのだということを思い知らされました。

辻氏の工房では下塗りを終えた河和田塗りZippoが整然と並べられ、乾燥されていました。漆には「乾燥」という言葉は正しくないといいます。水分が飛んで乾燥するのではなく、漆が化学反応を起こして硬化するといいます。従って漆は硬化させるのに温度管理と湿度管理が非常に重要になります。しかも漆が硬化するには季節にもよりますが3~7日必要とし、下塗りだけでも塗りと硬化を繰り返します。非常に長い時間をかけて作られるのが漆Zippoなのです。



下塗り後。上塗りが不要と思えるほどの光沢。

漆黒の漆Zippo。温度と湿度が管理された部屋で乾燥される

上塗り


拭き漆のようになった作業台と上塗りヘラ

こうして下塗りを終えたZippoは上塗り職人の元へ。完全に密閉された室内、塗りの対象物と何種類もの刷毛やヘラといった道具だけしかない殺風景な作業部屋。上塗り工程では埃さえ舞い上がるのは許されないのです。通常、漆塗りは下塗りの後に中塗りを挟み、研磨をしてから上塗りをしますが、それは中塗り・研磨という工程を経ないと漆独特の光沢を出すのが困難だからです。

しかし、越前河和田では驚くことに塗りだけで光沢を出します。あえて研磨という修正の効く工程を経ないのは、それだけ驚異的な技術を持つ証左ともいえるでしょう。

下塗り工程と同じく、塗りと硬化の工程を何度も繰り返し、大変厚みのある、まるで表面張力で盛り上がっているような漆のZippoが出来上がります。中塗り・研磨という工程が無い河和田塗りは、とてつもなく深く、瑞々しい光沢を持ち、圧倒的な存在感で見るものを魅了します。これほどの深みのある輝きと、耐久性は化学塗料やメッキでは出すことが出来ません。



漆と使い古された上塗り道具

全て手作業でZippoは塗られていく。

加飾・絵付け

上塗りまで仕上げられたZippoは加飾工程へ。越前河和田では蒔絵、沈金、蝋色といった加飾方法があります。塗り職人とは異なる雰囲気を持つ絵師たち。漆+Zippoというキャンバスの可能性は無限大。製作委員会では「沈金」「沈金厚拭き」「網目厚拭き」「綿地厚拭き」「蒔絵」など様々なバリエーションの漆Zippoの企画を進めています。また、漆芸作家とのコラボレーションも予定しています。今後の展開にご期待ください。



蒔絵師。繊細な筆使いで絵付けをする。

越前河和田。この町で漆Zippoは作られる。